研究概要

インドの金融発展

本書は、近年顕著な経済成長を達成しながらも依然として多くの貧困層を抱えるインドにおいて、銀行部門を通じた金融発展が持続的な経済成長と貧困層の生活水準の向上に対して、これまでどのような役割を担ってきたか、そして今後どのような役割を担い得るかについて分析を行っている。特に、金融発展について銀行部門の規模拡大を示す「金融深化」と銀行サービスへのアクセスや利便性の改善を示す「金融包摂」という2つの観点から捉え、銀行部門を通じた金融深化と金融包摂が経済成長と貧困削減に対してそれぞれどのような影響を及ぼしているかを明らかにしている。さらに、インドの銀行部門を所有形態に応じて複数のグループに分類し、各グループの特徴を反映させることで、より現実に即した分析を試みている。

金融包摂

金融包摂は、2000年代以降、世界銀行、アジア開発銀行、G20サミットなどの国際機関や国際会議、そしてインド、インドネシア、ブラジルなどの幾つかの途上国において新たに掲げられている開発政策目標の一つであり、貸付・預金・送金などの基本的な金融サービスを提供されなかった人々、あるいは金融サービスにアクセスできながらこれを十分に利用しなかった人々に対して、金融サービスを十分に活用できる環境を整えることを意味している。金融包摂は、フォーマルで基本的な金融サービスへのアクセスと利用の拡大を促すことで、それまでフォーマルな金融機関とは縁がなかった低所得者層の所得水準を引き上げ、これが経済全体の所得水準の底上げにつながることが想定されている。本研究では、金融包摂が途上国において実際に貧困緩和や経済成長を実現する効果を持ち得たかについて、データを用いた分析を行っている。


国際送金

出稼ぎ労働者から途上国に流入する国際送金は、1994年に政府開発援助を初めて金額面で上回り、
2019年には海外直接投資をも上回ることで、途上国にとって最大の外国からの資金ソースとなっている。このように近年急速に拡大している国際送金は、政府開発援助や海外直接投資とは異なり国境を越えた個人間の資金移転であるため、送金流入は受取家計の収入を増加させ、生活状況の改善につながることが期待されている。本研究では、送金に関する多くの先行研究をサーベイしつつ、送金流入が途上国の所得水準や貧困状況にどのような影響を及ぼし得るかについて、マクロデータを用いて実証的に明らかにしている。


インドのマクロ経済分析

本書は、近年のインドにおける貨幣と金融に関する諸問題をマクロ経済の観点から実証的に分析することを主な目的としている。本書は「金融政策」、「金融市場」、「金融発展」の3つのパートから構成されている。「金融政策」ではマネタリーターゲティング、複数指標アプローチ、インフレターゲティングなどインドでこれまで行われてきた金融政策フレームワークの有効性を分析している。「金融市場」では株式・商品・外国為替の各市場について、多様な計量手法を用いた分析を行い、それらの特徴を明らかにしている。そして「金融発展」では金融深化と金融包摂という観点から金融発展の貧困削減効果について検証している。